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eラーニングを起点とした企業戦略に直結した人材育成体系の構築
1990年代の後半から注目されたeラーニングが本格的な普及期に入りつつある。そして、eラーニングはいま、従来の企業内の教育・学習体系の再編や再定義に大きなインパクトを与えている。こうした背景の下、注目され始めたのがeラーニングマネジャーだ。eラーニングマネジャーにはいま、何が求められているのか。eラーニングは今後、どのような役割を果たしていくのか。こうした視点から富士ゼロックス総合教育研究所の深見研志氏に話を伺った。
eラーニングをきっかけに広がった企業内教育の可能性
eラーニングマネジャーがなぜ注目されているのか
インストラクショナルデザインがますます重要になる
「学習」を組織のなかにビルトインしていくことが最終的な目的
 
eラーニングをきっかけに広がった企業内教育の可能性
 
HRD(Human Resources Development)もしくはHCM(Human Capital Management)の重要な目的の1つは、企業や組織の目的・目標(戦略)を達成するのに必要な人材を育成することにある。目的を達成するのに必要な人材の知識・スキルのレベルを設定し、その知識・スキルレベルを達成することにあるわけだが、これは目的(戦略)を達成するということにつながっている。したがって、学習・教育機会を設定して、知識・スキルを身につけさせ、それを業務に活用させて、目的(戦略)を達成することによって、HRDやHCMの人材開発の役割は完遂されるということになる。

1990年代後半に登場し、急速に普及し始めたeラーニングは、こうしたHRD/HCMの本来の役割に一石を投じているといえるのではないかと考えている。なぜかといえば、クラスルーム形式の教育・学習とOJTを主体にしてきた企業内教育は、前述したようなHRD/HCMの役割を達成するには、さまざまな制約が多かったからだ。

変化の激しいビジネス環境のなかで、あるビジネス上の目的・目標を達成するには、新しい知識やスキルの習得が求められる機会が多くなっている。こうした環境のなかで、クラスルーム形式の教育・学習やOJTだけでは、明らかにカバーする規模とスピードの点では役不足になってきているからである。

いうまでもなく、クラスルーム形式の教育・学習は、学習の場所、講師・インストラクター、学習者(一定程度まとまった学習者の集団)という3つの条件を満たさないと行えない。また、OJTは、ある知識やスキルを業務展開するという局面では有効であるものの、知識・スキルを体系的に理解するには向いていない。

ここに、eラーニングという全く新しいタイプの学習・教育の手段が登場したわけである。

eラーニングは、いうまでもなく、クラスルーム形式の学習・教育の制約を超えた運用が可能になる。私は、前述のクラスルーム形式の成立条件を満たすために万障繰り合わせることなく、柔軟に教育・学習機会を提供できるということが、最も注目すべきeラーニングの特徴ではないかと考えている。

eラーニングは当初、従来型の企業内教育が抱えていたコストや時間上の問題を解決する手段として、従来の研修・学習をリプレースしていくなかで普及が始まった。つまり、従来の教育・研修体系のなかに、eラーニングをモザイクのようにはめ込んで、研修・教育体系をより効率的で効果的なものにしていこうという方向での普及である。

しかし、eラーニングが多くの企業に普及するなかで、これとは異なる新しい動きが始まりつつある。まず1つは、eラーニングの特徴を生かして、eラーニングならではの新しい教育・学習機会をつくり上げていこうという機運である。

もう1つは、eラーニングの教育・学習のパフォーマンスに注目していこうという機運である。研修会場までの移動コストや研修による業務上の機会損失コストの削減などの直近の経済的な効果、あるいは時間的な制約の解消といった動機から、従来型の研修・学習スタイルをeラーニングに置き換えていくということが行われてきたが、中長期的に見れば、当然、学習のパフォーマンスが問題になる。このパフォーマンスという点から、もっとeラーニングを活用・運用していこうという考え方である。

eラーニングの今後を考えていくうえで注目すべきは、むしろこちらの方ではないかと考えている。

たとえば、3カ月後に発売される新製品について、3,000人の営業マンに新製品の販売知識を1カ月間で身につけさせたいといった場合、クラスルーム形式の研修ではかなり大規模な計画が必要になる。当然、まずインストラクターを養成しなければならない。そして、3,000名の学習者を集め研修を実施しなければならないので、事実上不可能であるという判断が下されることも多かった。

しかし、eラーニングという手段を考慮すれば、その実現可能性ははるかに高まる。これはeラーニングの1つの側面を示したものに過ぎないが、eラーニングが、さまざまな可能性とインパクトを生じさせていることは確かである。
 
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eラーニングマネジャーがなぜ注目されているのか
 
極論かもしれないが、これまで多くの企業で実施されてきた企業内教育は、経営戦略に直結した即応力の点では応えきれていなかった。そこはかとない形で人材の総体的なポテンシャルを高めるために実施される研修が主流になっていた。

しかし、経営環境が厳しさを増し、HRD/HCMの役割が高まっていくなかで、人材開発・人材育成を重要な経営上の投資と考える企業が増えている。これは裏を返せば、HRD/HCMの投資効果(ROI)を評価していこうという動きにもつながっていくということである。この傾向はますます高まっていくだろう。

これは、具体的で明確な目標を持って計画され、その学習効果としてのパフォーマンスはもちろんのこと、それがきちんと業務に活用され、具体的な成果を上げるというところまでモニタリングされるような企業内教育が増えてくるということである。それと同時に、学習者側も、さまざまな学習機会を通じて知識・スキルを学び、それを業務展開させていくことに対するシビアな要請と評価が下されるようになるということでもある。

そうなると、大変重要な課題になってくるのが、研修・学習と企業戦略のすり合わせであり、これを実行に移す際の研修・学習のインストラクショナルデザイン(ID)である。

まず、企業戦略と、それを達成するために実行されるミッションを遂行するに当たって、どのような知識やスキルが必要になるのか、現状どのような知識・スキルが不足しているのかというコンピテンシーマネジメントにおける能力ギャップが明らかにされなければならない。その問題を解決するために、どのような学習・教育の機会を用意するかを検討し、その教育・学習の機会を効率的で効果的なものにするために、そのプロセスを設計しなければならない。これがインストラクショナルデザインである。

こうした流れのなかで、さまざまな教育・学習手段が決定されることになる。eラーニングはもちろん、クラスルーム型の研修、ロールプレイ、実地教育、OJTなどさまざまな手段をチョイスし、あるいはこれらを効果的に組み合わせていくということである。一方で、HRD/HCM上の企業内のニーズを取り込んだり、知識・スキルを分析したり、あるいは学習効果を測定し、評価するための仕組みをつくり上げる必要もある。

eラーニングマネジャーとは、こうした考え方や仕組みのなかで、eラーニングを計画・設計し、その運用をマネジメントしていく人材である。

注意しなければならないのは、企業内教育・学習においては、eラーニングは1つの手段に過ぎないということである。その意味では、企業戦略や事業遂行に直結した企業内教育体系を前提として、eラーニングマネジャーがその役割を発揮できる素地をつくり上げなければならない。

しかし、いま現実には、eラーニング導入を1つのきっかけとして、企業内教育・学習のあり方を戦略的に捉え直そうという機運が起こっている。その意味では、いま、その先兵として、企業内教育体系の戦略的な再編を主導していく役割を担う人材としてのeラーニングマネジャーが求められているといえるだろう。
 
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インターパーソナルスキルの習得に効果的なブレンデッドラーニング
 
eラーニングは、どちらかといえば知識習得に適した学習・教育の手段である。知識をスキルとして定着させるプロセス、応用的な知識を身につけるといった目的では、従来型のクラスルーム型の研修やロールプレイ、実地教育・体験学習、OJTやメンタリングなどの方が有効性は大きい。

この点では、eラーニングか従来型の学習・研修スタイルかという二者択一的な考え方ではなく、それぞれの特徴を生かしながら適宜組み合わせていくというブレンデッドと呼ばれる考え方が注目され始めている(図「ブレンデッドラーニングとは」参照)。
図「ブレンデッドラーニングとは」

たとえば、eラーニングは、必要な時期に、必要な知識を学習できるというアクセス性に優れている。また、学習者の知識・スキルレベルがばらばらな学習者の集団を前提にすると、クラスルーム型の集合教育では、総体的な学習パフォーマンスを上げるのには学習効率上の課題もあるが、一方、自分の知識レベルや理解のスピードに合わせて個別学習を行うことができるeラーニングでは、集合教育以上のパフォーマンスアップにつながるケースも多い。

しかし、eラーニングは個別性が強いだけに、学習者個人のセルフコントロールが他の学習手段以上に要求される。資格取得のための学習といったように、比較的強いモチベーションを持ちやすい知識レベルでの学習にはeラーニングは最適だが、モチベーションの形成を一緒に取り込んでいかなければならないような場合には、eラーニングの周辺にそれなりの演出や工夫が必要になる。

このように、まず、さまざまな学習手段の特性を理解することが重要である。そして、互いの長所・短所を組み合わせ、最も効果的な学習手段を構築することが重要である。これが学習・教育機会のブレンデッドの考え方である。
たとえば、クラスルーム型の研修のパフォーマンスを上げるために、eラーニングを通じて、学習者の知識レベル向上をスピードアップさせる。クラスルーム型の研修のフォローアップとしてeラーニングを活用するといった組み合わせである。あるいは、eラーニングを通じて学習した知識を、クラスルーム型の研修を通じてより実践的・応用的な知識として発展させ、メンタリングやOJTを通じて、業務活用していくことをサポートしていくといったプロセスも大変有効だろう。

こうした最適の学習・教育のプロセスを構築し提供していくインストラクショナルデザイン力がeラーニングマネジャーに求められている。
 
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「学習」を組織のなかにビルトインしていくことが最終的な目的
 
今後、eラーニングをより有効に機能させていくためには、前述したブレンデッドの考え方がキーワードになっていくと同時に、eラーニングそのもののパフォーマンスを高めるための企画・運用上の課題もたくさんある。

学習や教育は、業務成果を上げるために行われるものである以上、教育・学習の内容が業務に直結したものでなければならない。それはひいては企業の戦略やミッションにつながっていなければならない。そして、実際に学習や教育の効果を上げるためには、その目的達成のための評価の尺度も明確な形で定めなければならない。

そして、それと同時に、学習者側の視点に立てば、学習者自身のモチベーションを喚起するものでなければならない。学習者が要求する学習のテーマやコンテンツを、学習者自身が効率的に、楽しく(興味を持って)学習できるものでなければならない。

この点については、学習のカリキュラムやコンテンツの質が大変重要なテーマになる。eラーニングはいま、本格的な普及期に入ろうとしているが、まだまだ克服すべきカリキュラムやコンテンツ上の課題は多い。

当社を含め、さまざまなeラーニングベンダーが学習のカリキュラムやコンテンツを提供し、その選択のバリエーションは年々広がっているが、eラーニングマネジャー自身がコンテンツやカリキュラム開発に主体的にかかわっていくことも、大変重要な課題になっているといえるだろう。

ところで、1990年代から欧米では「学習する組織」(Learning Organization)が注目されてきた。学びを組織文化・企業風土とした組織である。特定の学習・教育機会以外にも、業務と学習が共存した環境をつくり上げることで、企業の体力を強化し、パフォーマンスを高めていけるような組織像である。

この「学習する組織」に向かって、「学習」を組織そのものにビルトインしていく。これが重要な課題として注目されている。

こうした「学習」のビルトインに、eラーニングという仕組みの利点も大きい。組織内での知識の共有を目指すナレッジマネジメントシステムや、業務遂行のための知識支援を行うEPSS(Electronic Performance Support System)などとともに、eラーニングシステムをどのように生かしていくかは大きな課題である。

社内教育・学習体系とこうした知識支援の仕組みの一体化、一貫性も、今後eラーニングマネジャーの大きな課題になっていくことだろう。
 
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※本稿は「人材教育」(株式会社JMAM人材教育)2003年2月号にて掲載された記事を再編集したものです。 BACK
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